いのうえ コラム
第16回 済まぬ、手前ミソ

 まあ、自分のコラムなのだからなにを書いてもいい、といえばその通りだが、逆に、だからこそあまり宣伝めいたことはしたくない、という気持ちもある。本人は宣伝のつもりではないのだが、なにはともあれ今回はお許しあれ。
 小生の新刊が出た。「図説 国鉄蒸気機関車全史」(JTBパブリッシング)である。
B5判、360頁というなかなかの大冊で、編集の最後の追い込みにはヒイヒイ言っていたくせに、でき上がってみるとずっしりと手応えにすっかり嬉しくなっている始末だ。
 要は、国鉄に籍を置いた蒸気機関車のひとつひとつをイラストにおこし、それを「アイコン」として時系列に歴史を追いかけていく、ということに終始した。
意外にも、単純に時系列に述べたものは過去にも見当たらなかった。型式別に述べたものは、データブックとしては有効だが、前後の関係や機関車の重要度は、ともすれば判別しにくい。たとえばの話、「大湯鉄道から国有化されたものの、ほとんど国鉄線路上を走ることなく廃車されてしまった50型機関車と、長寿を誇った10型機関車を同列に扱うのは、平等の不平等」の気がしてならなかった。「明治の機関車」のように写真が残っているものとそうでないものとで扱いのちがうのも気になった。描き起こしたイラストならば、すべての機関車を同等に扱える。
 この書籍を思い立ったのは、もう遥かむかしのこと、それこそ蒸気機関車が引退してしまった頃のことだ。要するに単純に「好き」を糧に、蒸気機関車を追いかけ、写真を撮り、模型をつくってきた、その一環として蒸気機関車の歴史をまとめておきたい、というものであった。蒸気機関車がなくなってから40年、われわれがバイブルのように思っている臼井茂信さんの「蒸気機関車の系譜」(交友社、1974年)に著されている氏独特の洒脱な文章も、時とともに背景を知らぬ者には解読が難しくなっているかもしれない。それはもったいない。落語の解説書ではないけれど、じゃあ、その背景をシンプルに伝える書物があってもいいのではないか。本書の企画の小さな因のひとつはそんなところだったかもしれない。
というわけで、イノウエの思いの詰まった一冊。蒸気機関車を語るときに、必ずや役に立つ。それは早くも自分で有効に利用して助かっているほど。
書店にご注文いただくのが一番嬉しいが、tt-9宛にご注文いただけたら、郵送することも可能。なにとぞよろしく。