第9回 2010年 新年のことなど
「ミレニアム」などと世界中で大騒ぎしたのがもう10年も昔のことになってしまった。「ミレニアム」は2000年だからまるまる10年以上というのが正しいか。ということはわが「TT9」も早や10年を経過したことになる。C622にはじまっていくつもの製品を世に送り出し、ありがたいことになん人もの方にご愛好いただいたりしている。
9mmの線路の上に機関車をおき、そのプロポーションのよさに思わずニコニコしてしまうとともに、こうした製品をつくりだせたことに、大きな満足感を得たりしている。いささか手前ミソのようで恐縮だが、この思いはイノウエ自身がメーカーというよりもひとりの模型好き、単純にファンとしての部分の比重が大きいことをそのまま物語っているようにも思う。自分の欲しい物をつくりたいという、本来の欲望が実現できた、それがそのまま同好の士の賛同をいただけて、製品として売り出せた、かつてイノウエが憧れた世界がそこにオーヴァラップする。
英国にロータスというブランドがある。いや、クルマの話で恐縮だが、未だにリアル・スポーツカーだけをつくり出すブランドとして、数少ない英国ブランドとしても知られている。このブランド、1950年代はじめに、ひとりのクルマ好きの学生がつくり出したスポーツカーに端を発している。トライアルというクルマのレースに勝ちたいがために、つくり出したスポーツカー。アマチュアの作ながら好成績を収めたことから、それを知ったなん人から同じものをつくって欲しいという依頼が舞い込む。ジグをつくり、手づくりながら量産をはじめたところからロータス社は生まれた。そのヌシであるコーリン・チャプマンは、手づくりのスポーツカーを振り出しに、スポーツ・クーペ、さらにはスーパーカーの英国版などで商売を成功させ、最終的にはF1に打って出る立志伝中の人物となる。
もとより日本の狭軌在来線をテーマにした「TT9」。ましてや商売のセンスなどからきし持ち合わせのないわれわれだから、世界にその名を轟かせるまでにはいく筈もないが、それでも、自分たちの欲しかったもの、夢に描いていたものを形にし、しかも共鳴者を得られた悦びは、チャプマンに通じるものがある、と自負している。10年を経てどういう方向性を見出すか。自分自身、大変に興味深く思ったりする次第だ。「TT9」にこののちも温かいご支援を。
いのうえ コラム